鹿児島訪問研究会報告1〜天空の森

経営品質協議会 10月月例会 鹿児島訪問研究会報告

経営品質アセッサーフォーラム 理事
経営品質協議会認定セルフアセッサー
小田川 賢太朗

鹿児島訪問研究会参加の背景

 2019年度の経営品質アセッサーフォーラム(以下、JQAA)の活動では、今までにないアプローチでの活動を試すことで、全国の経営品質協議会認定セルフアセッサー(以下、セルフアセッサー)のみなさんを支援できるようにとの企画をしました。その一つが経営品質協議会のベンチマーキング行事に参加し、地方のアセッサーとの交流を行うことで、地方のアセッサーの活性化にJQAAが貢献する方法を探ることでした。

 今回、筆者はJQAA及び勤務先である株式会社Phone Appliの支援を受けて、経営品質協議会(以下JQAC)が主催し2019年10月28日(月)・29日(火)に開催された「鹿児島訪問研究会」(以下「この研究会」)に参加し、次の3つの組織を訪問してベンチマーキングをする機会を得ました。

  • 天空の森 (雅叙苑観光有限会社)
  • 株式会社現場サポート
  • 株式会社九州タブチ

 この研究会には全国各地から企業経営者、日本経営品質賞の審査員経験者、セルフアセッサー、推進者。加えて、サービス産業生産性協議会(SPRING)との合同開催でしたので、そちらの活動のメンバーを含め14名が参加しました。またJQACとサービス産業生産性協議会から事務局2名が参加しました。

ベンチマーキングにあたって

 経営品質の活動に携わっているアセッサーのみなさんにとって「ベンチマーキング」という言葉はなじみのある言葉であると思います。経営学事典でなくとも一般的な辞書にも掲載されていて「業界の優良企業の経営事例から目標とするベンチマークを設定し、それとのギャップを埋めるために業務改善を行う」(大辞林)となっています。ベンチマーキング活動のやり方は様々で、書籍やビデオを教材として行う方法もありますが、現地を訪問してのベンチマーキングが効果的です。

筆者の考える現地を訪問してのベンチマーキングの利点は次の三点です。

①文字や写真で得ていた情報が、訪問により映像化され、体験に変わることで理解が深まること
②その組織の社員とふれあえることで組織風土を感じ取れること
③一緒にベンチマークする仲間との意見交換により同じことを見聞きしたときの感じ方の違いを知ることができること

それでは一つ目の訪問先、「天空の森」から報告します。

企業概要

天空の森 (雅叙苑観光有限会社)
「リゾートとは『人間性回復産業』である」という信条をもつ田島健夫氏が鹿児島県霧島市で経営するリゾート施設。東京ドーム13個分という敷地に温泉付きのヴィラがわずか5棟。一泊の宿泊料金は30万円〜50万円。

ベンチマーキングの概要

  • 天空の森内レストランで昼食。
  • 徒歩とカートで広大な敷地に点在する各施設を散策
  • 田島氏講演
  • 社員の方も交えて質疑応答

天空の森のコンセプト

 天空の森について資料やWebサイトを見ての筆者の第一印象とそこからの疑問は次の通りであった。

  • 宿泊料が高額なことから高級リゾート施設のようである。どのような高級な施設やレベルの高いサービスが提供されるのだろうか。
  • どうして人気なのだろうか?いや、きっと人気なのだろうが何がお客様を惹きつけるのだろうか。
  • ターゲット顧客は誰なのだろうか。なぜ鹿児島なのだろうか。
  • 経営者はどんな人物なのだろうか。

 それでは天空の森と創業経営者の田島氏について見ていこう。

1945年鹿児島県牧園町妙見温泉の湯治旅館に生まれた田島氏は、一度銀行に就職するも、1970年に懐かしいふるさとを再現した「忘れの里 雅叙苑」を創業する。当時、団体客を中心とした一夜限りのどんちゃん騒ぎスタイルが多勢だった旅館業態に疑問を感じ、昔ながらの民家に宿泊する体験を提供するような形態の「忘れの里 雅叙苑」を開業したのだ。自分が鹿児島に戻ってきたときに感じたように、皆ふるさとが恋しいとどこかで思っていて、この体験をしたがるだろうとの予想が当たりヒットした。その後露天風呂付きの客室を世の中に広めるきっかけになり、温泉宿のトレンドを作ったとも言われている。一方で、この業態は半年で瞬く間に他社にコピーされてしまった。そこから田島氏の唯一無二、オンリーワンのリゾート施設を作るジャーニーが始まった。

 そのコンセプトを列挙すると次の通りである。

  • 豊かさ(豪華、すごい、お客様は特別)ではなく幸せを提供する舞台を提供し、美しい・きれいと涙ぐむシーンを作ること
  • 地域のショーウィンドウになる 観光産業は地域の伝統産業であるはずで、利益が地元に還元されること
  • 空港から20分以内で周りに人工構造物がなく、良質な水と温泉があること

 これらのコンセプトを元に、自分の仕事は何かを見つめたところ導き出されたのが、「リゾートとは『人間性回復産業』である」という信条で、田島氏は人間性の回復とは「天空の森に来てもらうことで人を裸にすること。生物学的なヒトとなり、立場を捨てた裸の状態にしてしまうこと。」だと述べている。

 田島氏は、1994年から25年の歳月をかけて何もなかった森や竹藪を開墾してジグソーパズルを作り上げてきたものがようやく形になってきたと述べている。天空の森には世界中から多くの著名人が訪れているそうである。彼、彼女らの求めているものは、天空の森で得られる立場を捨てた裸の状態なのであろう。ある世界的ブランド企業の創設者は「ここは未完成だからいい。僕のブランドの時計も未完成だ。」と述べたという。

 天空の森は豪華観光列車「ななつ星in九州」のツアーで唯一列車を降りて宿泊する施設となっている。実は約10年前に田島氏がJR九州に豪華観光列車を走らせようと持ちかけたところからの流れなのだそうだ。九州全体の地域のショーウィンドウとしての役割も担っているのである。

 筆者の第一印象から浮かび上がった疑問と訪問して分かったことを比較すると次の通りになる。

疑問 訪問してわかったこと
どのような高級な施設やレベルの高いサービスが提供されるのだろうか 高級・豪華といった尺度ではなく「幸せ」を感じてもらうための施設やサービス
なぜ人気なのか 「人間性回復」をすることができる空間・時間を得られる
ターゲット顧客、なぜ鹿児島 ターゲット顧客は世界中。鹿児島に求めるものがそろった土地があったから。
経営者はどんな人物なのか 田島健夫氏は、真の観光産業を作り、お客様の「人間性回復」と、地域社会への還元を信条として事業を行っている

 天空の森の訪問では田島氏の講演だけでなく、大半の施設の中に入って見学できたことで天空の森が提供している施設やサービスを経験によって知ることができた。

顧客価値創造の連続 〜顧客価値の創造は引き算である〜

 田島氏は天空の森を作ってきた課程を「顧客価値創造の連続」であったと述べていた。その中で田島氏が見いだしたことは次の通りである。

  • 顧客価値は歴史とともに動いて変化するものである。
  • 付加価値とは、足すことではなく引くこと。戦闘機に無駄なものがついていないように。
  • 勝つのではなく、どうやったら自分たちが生き延びられるかを常に考えた。「僕の中に勝つはない」別の言い方をすれば、「当たる確率を上げるよりも、当たらない確率を下げること。
  • 原価を下げるな、上げろ

経営計画は無い、決算書は10年に一度がいい

 このような経営をしていて、それはどのように計画されているものなのか、そして結果はどう振り返っているのか気になるところである。田島氏によると、収支計画ありきで行っていないため、経営計画書はないとのこと。数え切れない失敗もしてきている中で今があるのは、良い銀行と巡り会えたからこそであるとのことであった。「決算書はできれば10年に一度作文形式で提出する程度にしたい(笑)」と考えているそうである。

人材採用・育成

 一代で天空の森を築いてきた田島氏。田島氏の信条に共感し、天空の森で働く社員はどのように採用しているのだろうか?田島氏によると、次の通りだそうである。

  • 採用するのは誰でもいいと思っているが、中々ここ鹿児島まで来てくれる人はいない
  • 最大の弱点を最大の強みに変える発想で「お金がない、ではなく、お金じゃない」ものをしっかり提供したい。例えば、仕事に誇りと責任を持って、独立できるレベルにまで高めること。やってることがすごいことなんだぞというプライドを持たせること。例えば、ソムリエ勉強中の社員でも何十万円をするワインを扱えるなど。
  • もちろん、給料をどこよりも高くしたいとも思っている。仕事の空きを待つ行列ができるようになりたい。
  • その人の持っているものを見抜いて、それを活かせるステージを作ってあげるのが経営者の仕事
  • スタッフの行動にルールはなく、自分たちで決めている。放牧型である。それでも成り立っているのはお客様と接していてどうすればお客様の幸せにつながるかを考えているからと考えている。
  • 後継者育成について、血でつなぐ必要は無い。哲学を継いでくれる人が欲しいと考えている。

ベンチマーキング

 ベンチマーキングに行った我々研究会一行は、田島氏は他のリゾートをベンチマークしてみたのか聞いてみた。すると田島氏はこう述べた。

「僕は同業のホテルや旅館に行ったことがない。旅にも行かない。」

ベンチマーキングのレポートを書く立場の筆者としては、その回答に一瞬面食らったが、田島氏の定めたコンセプトや信条を追求するとき、他社との比較することに意味がないことはすぐに合点がいった。なぜなら他と競争することは一切していないからである。あくまで自分たちが信条とするリゾートを作るかを進めているだけで、他社が何をしているかは関係がないのだ。

まとめ

 読者は既にお気づきかもしれないが、天空の森という会社も、田島氏も経営品質のフレームワークを用いて事業を行っているわけではない。ちなみに今回はサービス産業生産性協議会(JCSI)事務局の加藤氏がつないでくれたご縁で、同協議会とJQAC合同のこの研究会による訪問が実現したとのことである。そんなわけで天空の森はこの研究会の訪問先の三社の中では唯一経営品質のフレームワークを用いていない企業だったわけであるが、「引き算」による顧客価値創造をどのように行ってきたかが筆者にとってはとても印象に残った。また人材育成の面においては、経営品質賞受賞企業で聞かれるような、「仕事に誇りを持ってもらえるようにする」「その人の特性にあった仕事を用意する」といった共通項が見られた。

 他にもたくさんのことを聴くことができたのだが、それはまたの機会に譲りたいと思う。

見学の様子

昼食会場だったレストラン
野菜は敷地内の畑で取れたものを、オリーブオイルも地元産のものを使用。
レストラン脇のテラスからの風景視界いっぱいに緑が広がるように工夫されている。しかし手すりがないと建築上許可が下りないため、下側にもスペースを設けて底に柵を設置している。(次の写真参照)
「段々畑」と「天空の川辺」
敷地内を移動するカートは、軽ワンボックスを改造したもの。川の岩場を走行して案内してくれ非日常的な体験をすることもできる。
5つあるヴィラの内の一つ。各ヴィラ同士は離れていて、5組のお客様が顔を合わせることがないように配慮されているとのこと。ヴィラに備え付けられている露天風呂にも裸のまま数十メートル歩いて行くのだそうである。
一番大きなタイプのヴィラ。リビングルームとベッドルームが別棟になっている。
田島氏による講演の様子。普段講演をすることはほとんどなく、見学も受け入れていないという。今回の訪問研究会はとても貴重な機会であった。
田島氏と記念撮影する筆者

※記載内容は取材時のものです。

2020年2月16日 | カテゴリー : blog_general | 投稿者 : Kentaro Odagawa